東京高等裁判所 平成4年(行ケ)97号 判決 1994年6月14日
東京都東村山市廻田町3丁目19番13号
原告
蒔田義夫
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 麻生渡
同指定代理人
吉村宗治
同
中村友之
同
関口博
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が、平成3年審判第22024号事件について、平成4年3月26日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。
2 被告
主文と同旨の判決。
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和60年11月20日、名称を「液化石油ガス供給装置」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、特許庁に対し、実用新案登録出願(以下「本願」という。)をしたところ、平成3年11月5日、拒絶査定がなされたので、同年11月12日、この拒絶査定に対する審判を請求した。
特許庁は、この請求を平成3年審判第22024号事件として審理の上、平成4年3月26日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同年4月30日、原告に送達された。
2 実用新案登録請求の範囲の記載
低圧側に、安全弁2cの最高作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する液化石油ガス供給装置の従来の調整器2を排除して、代わりに、高圧ボンベ1と前記各種ガス器具との間に、ガス減圧弁を設け、その減圧弁の低圧側に設定以上のガス圧で作動する高圧ガス遮断弁を設けた液化石油ガス供給装置(別紙図面1参照)。
3 審決の理由の要点
(1) 本願考案の要旨は前項記載のとおりである。
(2) 引用例の記載
特開昭51-22297号公報(以下「引用例」という。)には、液化石油ガスを充填した高圧ボンベ1のガスを調整器2の弁2cで減圧し、ガスメーター3や屋内のガス元栓5を経てガス器具で消費するようにした液化石油ガス供給システムの防災技術が開示されており、特に、引用例の9頁ないし11頁には、調整器の高圧ガス遮断機能の低下によりガスの使用中断中に高圧ガスが調整器の弁から漏洩した場合に、低圧側のガス圧が異常に上昇することを防止し、もって、低圧側のガス元栓等からのガス漏洩を防止するために、調整器とガス元栓類との間に低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合に作動する弁11c付き自動遮断装置11と放出用安全弁10を設けることが、図面とともに記載されている(別紙図面2参照)。
(3) 引用例との対比
<1> 一致点
本願考案と引用例記載の考案(以下「引用考案」という。)は、低圧側のガス元栓類やガス燃焼器等からのガスの漏洩を防止することを目的とした液化石油ガス供給装置に関するものであり、そして、引用例のガス元栓類も、その気密検定基準値が調整器の安全弁の最高作動ガス圧より低い値になるように製作されているものと認められ、また、引用例の調整器2内の弁2cは高圧ボンベ1からの高圧ガスを減圧するための弁であるから本願考案の「ガス減圧弁」に相当し、引用例の自動遮断装置11の弁11cは低圧側のガス圧が設定値以上になったときに作動する遮断弁であるから、本願考案の「高圧ガス遮断弁」に相当するもので、結局両者は、高圧ガスボンベと低気密の各種ガス器具との間に減圧弁を設け、その減圧弁の低圧側に設定以上のガス圧で作動する高圧ガス遮断弁を設ける点で軌を一にしている。
<2> 相違点1
本願考案が従来の調整器を排除し、代わりに減圧弁を設けているのに対し、引用考案は従来の調整器を排除せずに、その調整器の弁を減圧弁としている点で、両者間に相違が認められる。
<3> 相違点2
本願考案が放出用安全弁を設けることを必須の要件としていないのに対し、引用考案は放出用安全弁を設けることを必須の条件としている点で、両者間に相違が認められる。
(4) 相違点1についての判断
この種のガス供給装置における減圧弁は高圧ガスボンベからの高圧ガスを減圧するための弁であり、その減圧弁として引用考案のように従来の調整器の弁を用いるか、あるいは本願考案のように従来の調整器を排除して代わりに減圧弁を設けるかは単に設計上の問題であって、減圧弁を設ける点において、両者間に実質的な差異はない。
(5) 相違点2についての判断
引用例の放出用安全弁10は、低圧側のガス圧が規定以上に高くなったときに作動してその高圧ガスを大気中に放散するために設けられたもので、自動遮断装置の遮断弁と同様に高圧ガスが低圧側の各種ガス器具に供給されないように二重に安全を高めるために併設されたものであり、そして、引用例の9頁右下欄32行ないし37行には、自動遮断装置か、または、放出用安全弁か、どちらかを設けることが防災上必要な基本条件である旨記載されていることからみて、引用考案において、放出用安全弁を省略して本願考案のように遮断弁だけで高圧ガスを遮断するように構成するようなことは安全性の要求度等に応じて当業者が適宜選択して行なうことができる程度のことと認められる。そして、その作用効果も予測し得る程度のもので、特に顕著なものがあるとも認められない。
(6) したがって、本願考案は、引用例記載の公知の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法3条2項の規定により登録を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
(1) 審決の理由中、(1)(本願考案の要旨)、(2)(引用例の記載)、(3)(引用例との対比)のうち、<1>(一致点)及び<2>(相違点1)は認め、(3)のうち、<3>(相違点2)の認定、(4)(相違点1についての判断)、(5)(相違点2についての判断)、(6)は争う。
(2) 取消事由
<1> 相違点の誤認(取消事由1)
引用例記載の液化石油ガス供給装置においては、高圧のボンベと低圧の屋内のガス器具とが調整器を介して直結しているが、パッキン面の荒れ、凹み、部分的な弾力性の低下、弁座に対する減圧弁の圧接のズレなどにより、調整器内の減圧弁の遮断機能が低下したことにより、高圧ガスが漏洩した場合、低圧側に漏洩したガスが、放出用安全弁の作動ガス圧以上に高くならないと、放出用安全弁が開かないので、放出用安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造されたガス器具等から屋内に漏洩する。また、漏洩したガスが放出用安全弁の作動ガス圧まで高くなると、放出用安全弁からガスが放散される。そして、放出用安全弁から放散されたガスが、建物の隙間などから屋内に侵入したり、床下、下水溝などに滞留して、引火爆発して、重大なガス事故を引き起こす。ところが、引用例にはかかる問題点は記載されておらず、引用例記載の発明の致命的欠陥及びその欠陥に関連する重要な諸問題を示唆する記載もない。原告は、引用例記載の発明にかかる問題点が、放出用安全弁の作動ガス圧と元栓等の気密が逆になっている欠陥に基づくことに気付き、かつ、上記欠陥が調整器内の放出用安全弁の存在にあることの知見を得て、引用例記載の発明のかかる問題点を解決する目的で、本願考案を創作した。すなわち、本願考案は、「低圧側に、安全弁2cの最高作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する液化石油ガス供給装置」において、従来の放出用安全弁付き調整器を排除し、代わりに、放出用安全弁のない減圧弁を設ける構成、すなわち「従来の調整器2を排除して、代わりに、高圧ボンベ1と前記各種ガス器具との間に、ガス減圧弁を設け」る構成を採択したものである。
本願考案は、ガス栓や継ぎ目などからのガス漏洩による事故を防止するだけでなく、放散ガスによる事故も防止し、さらに、大量のガスを無駄に放散する不経済も防止できるという作用効果を有するものである。
以上のとおり、本願考案は、「低圧側に、安全弁2cの最高作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する液化石油ガス供給装置」とその構成を限定しているが、かかる限定は本願考案が解決しようとする課題を表示したものであり、本願考案の中心的構成要件である。しかるに、引用考案にはかかる限定はない(相違点a)。さらに、本願考案は、上記の限定された液化石油ガス供給装置の従来の放出用安全弁付き調整器を排除し、代わりに、放出用安全弁のない減圧弁を設ける構成を採択したもので、放出用安全弁を設けないことを必須の要件としている点で引用考案と相違する(なお、安全弁、放出用安全弁、放散用安全弁はいずれも同義である。)。
しかるに、審決は、相違点aを看過し、かつ、相違点2について、本願考案において、放出用安全弁を設けることを排除していないものと誤って認定し(相違点2の誤認)た。
<2> 相違点についての判断の誤り及び作用効果についての判断の誤り(取消事由2)
前記<1>に述べたとおり、引用考案は、「安全弁付き調整器の弁を減圧弁としている」のに対し、本願考案が「安全弁付き調整器を排除して、放出用安全弁を設けないで、減圧弁を設ける」点で相違するのは、相違点aを構成する課題の解決のために、採択された構成であり、引用例には、引用考案の致命的欠陥及びその欠陥に関連する重要な諸問題を示唆する記載がないのであるから、上記相違点を構成する本願考案の構成を採択することは、当業者にとって、容易ではない。
そして、引用考案の放出用安全弁方式は、その保安目的とは逆にガス事故の原因になっており、ガスを無駄に放散する不経済の原因にもなっているところ、本願考案はかかる安全弁を排除して、放出用安全弁のない減圧弁を設けることによって、格別の効果を奏するものであり、かかる効果は引用考案からは予測できないものである。
しかるに、審決は、本願考案の作用効果も予測し得る程度のもので、特に顕著なものではないと、誤って判断した。
以上のとおり、審決は、相違点aを看過し、相違点2を誤認した結果、相違点についての判断を誤り、作用効果についての判断を誤り、引用例記載の公知の考案に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものと誤って判断した。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の反論
1 請求原因1ないし3は認め、同4は争う。審決の認定及び判断は正当であって、原告主張の違法はない。
2(1) 取消事由1について
<1> 相違点aの看過について
引用例には、液化石油ガスを充填した高圧ガスボンベ1のガスを調整器2の弁2cで減圧し、その低圧側に、ガス元栓類、ガス導管継目、ガス燃焼器などの関連器具類を配設した液化石油ガス供給装置が図面とともに開示されており、そして、調整器2の安全弁2a(本願考案の安全弁2cに相当する。)の作動ガス圧は水柱700±140mmであること、ガス栓類等の気密検定基準は水柱420mm以上であることが記載されている。したがって、引用考案も「低圧側に、安全弁2cの最高作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する液化石油ガス供給装置」を示唆している。
<2> 相違点2の誤認について
本願考案の明細書の考案の詳細な説明の項には、「また、二重に安全弁を高める目的で高圧ガス遮断弁と元栓などの間に放散用安全弁を設けてもよい。」(甲第2号証38頁13行ないし15行)旨記載されており、本願考案において、必要に応じて放出用安全弁を設けることもできるとされているのであるから、放出用安全弁を設けることを排除しているものではない。したがって、本願考案が放出用安全弁を設けることを必須の要件としていないとの審決の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2について
引用例には、従来の液化石油ガス供給装置における調整器の放出用安全弁の作動ガス圧は水柱700±140mmであること、ガス栓類等の気密検定基準は水柱420mm以上であること、ガス栓やホース等の経年劣化に伴い低圧側に気密が低下した場合、調整器の調整弁から高圧ガスが漏洩するようになると調整弁の遮断力の限界も下がり、低圧側の気密が低下する程、高圧ガスが漏洩しやすくなること、低圧側のガス圧が規定以上に高くなったために、規定以下のガス圧では漏洩しないような条件のホースの割れ目、嵌合部分、ガス栓の摺動部分等から漏洩したと思われる災害のあること、引用例記載の発明はガス関連器具とシステムの欠陥を解明し、その災害原因に対応する防災システムの確立を目的としていることが、それぞれ記載されている。上記各記載によれば、引用考案は、従来の液化石油ガス供給装置の低圧側に、放出用安全弁の最高作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する液化石油ガス供給装置の欠陥を解決することをその課題としているといえる。したがって、本願考案も引用考案もその目的、課題を共通にしている。
また、引用例には、液化石油ガスを高圧ガスボンベから調整器を通して直接使用する場合の防災対策として、「低圧側のガス圧が規定以上に高くなった場合、低い作動ガス圧で作動する自動遮断装置、または放出用安全弁を設備することが防災上絶対必要な基本条件である。」(甲第3号証9頁右下欄14行ないし17行)旨記載されており、自動遮断装置か放出用安全弁のいずれかを選択して設置すればよいことが開示されているから、引用考案において、低圧側の放出用安全弁を省略して本願考案のように遮断弁だけを設けるように構成するようなことは、安全性の要求度や経済的な面から当業者が適宜設計を変更して行なうことができる程度のものである。そして、ガス放出用の安全弁の設置を省略してガスを放散しないようにすることによる作用効果は自明のものであり、ガス災害の防止対策として、ガスの漏洩を防止してガスを系路内に閉じ込めるようにする考え方は本願考案の属する技術分野では周知の事項であるから、放出用安全弁を省略して遮断弁だけを設けるように構成したことによる本願考案のガスの閉じ込め効果は、その構成上自明の効果である。
第4 証拠関係
証拠関係は記録中の証拠目録の記載を引用する(書証の成立についてはいずれも当事者間に争いがない)。
理由
1(1) 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(実用新案登録請求の範囲の記載)及び3(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
(2) 審決の理由のうち、本願考案の要旨、引用例の記載、一致点及び相違点1の認定については、当事者間に争いがない。
2 取消事由について検討する。
(1) 取消事由1(相違点の看過及び誤認)について
<1> 相違点aの看過について
甲第3号証(特開昭51-22297号公報、引用例)には、「調整器内安全弁2aの作動ガス圧は、弁2cが開かれた際の正常な最高ガス圧で作動しないように高く設定されている。(作動ガス圧・水柱700±140mm)」(9頁右上欄7行ないし10行)、「従来システムのガス栓5の気密は、検定基準は水柱420mm以上、製品試験は水柱1000mm程度で行なわれるが、ホース等と共に使用や経年劣化に伴い気密は低下する。そのため調整器弁2cから高圧ガスが漏洩するようなことが生じても、気密低下部分からガス漏洩するようになると、低圧側のガス圧がその許容ガス以上に高くならないため、弁座2bに対する弁2cの圧接力もそれ以上強くならない。従って、低圧側の気密が低下する程、弁座2bに対する弁2cの圧接力の限界も下がり、高圧ガスが漏洩しやすくなる。」(8頁左下欄17行ないし右下欄7行)、「低圧側のガス圧が規定以上に高くなったために、規定以下のガス圧では漏洩しないような条件のホース6の割れ目、嵌合部分、ガス栓5の摺動部分等から漏洩したと思われる例も多い。」(9頁左下欄13行ないし16行)、「液化石油ガスを高圧ボンベから調整器を通して直接使用するシステムの場合、低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合、低い作動ガス圧で作動する自動遮断装置、または、放出用安全弁を設備することが防災上絶対に必要な基本条件である。」(9頁右下欄12行ないし17行)、「この発明は、液化石油ガスを高圧ボンベで直接供給して使用する従来システムの調整器2とガス栓5類との間に、低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合に作動する放出用安全弁類を設備した防災システムである。この防災システムは、使用中断中に高圧ガスが漏洩して低圧側のガス圧が設定以上に高くなると作動ガス圧が低い放出用安全弁が作動してガスを屋外に放出し、ガス圧の異常上昇による屋内でのガス漏洩を防止する。」(9頁右下欄18行ないし10頁左上欄7行)、「第7図は高圧ガス漏洩に対する最も効果的な防災システムである。従来の調整器2と安全弁2aをそのまま利用でき、自動遮断装置11の作動ガス圧は、ガス栓5入口側の閉塞ガス圧より若干高く設定し、放出用安全弁10の作動ガス圧は、自動遮断装置11の作動ガス圧より若干高く設定すると、ガス栓5の入口側のガス圧は、どのような条件の場合にも、常時、自動遮断装置又は放出用安全弁の作動ガス圧以下に保たれる。」(10頁右上欄4行ないし13行)と、それぞれ、記載されていることが認められる。さらに、同号証の第1図には、安全弁(放出用安全弁と同義であることは原告の認めるところである。)2a及び弁2cを備えた調整器2を設けた液化石油ガス供給装置が従来例として、第7図にはガス減圧弁2c及び放出用安全弁2aを備えた調整器2とガス栓5との間に弁11c付き自動遮断装置11及び放出用安全弁10を備えた液化石油ガス供給装置が実施例として、それぞれ、記載されていることが認められる。
上記各記載によれば、引用例には、低圧側に、放出用安全弁の最高作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する従来の液化石油ガス供給装置の欠陥を解決することをその課題として、かかる欠陥を有する液化石油ガス供給装置において、低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合に、低い作動ガス圧で作動する自動遮断装置又は放出用安全弁を設けることが防災上必要であるとの知見に基づき、作動ガス圧を低く設定できる放出用安全弁を設ける構成を採択して、弁2c(本願考案のガス減圧弁に相当することは当事者間に争いがない。)及び作動ガス圧・水柱700±140mmの放出用安全弁2aを備えた従来の調整器2とガス栓5との間に弁11c(本願考案の高圧ガス遮断弁に相当することは当事者間に争いがない。)付き自動遮断装置11及び作動ガス圧の低い(しかし、自動遮断装置11の作動ガス圧より若干高く設定された)放出用安全弁10を備えた構成の考案が開示されていると認められる。
以上によれば、引用考案も、「低圧側に、安全弁の最高作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する液化石油ガス供給装置」についての考案であることが認められるから、本願考案と引用考案とは、かかる点で一致するものと認められる。したがって、審決には、相違点aを看過した誤りはなく、原告のこの点についての主張は理由がない。
<2> 相違点2の誤認について
前記実用新案登録請求の範囲には、「…液化石油ガス供給装置の従来の調整器2を排除して、代わりに、高圧ボンベ1と前記各種ガス器具との間に、ガス減圧弁を設け、その減圧弁の低圧側に設定以上のガス圧で作動する高圧ガス遮断弁を設けた液化石油ガス供給装置」として記載されているが、「従来の調整器2」の内容が同記載からは一義的に把握することができない。そこで、本願の願書添付の明細書及び昭和61年5月7日付け手続補正書(甲第2号証、以下「本願明細書」という。)の考案の詳細な説明及び図面を参酌すると、本願明細書には、「従来の液化石油ガス供給装置の放散用安全弁付き調整器2は、通常リリーフタイプと呼ばれる減圧弁である。」(願書添付明細書19頁10行ないし12行)、「安全弁2cの作動ガス圧水柱700±140mm」(同10頁7行ないし8行)と、それぞれ、記載され、さらに、本願明細書添付図面第1図(手続補正書添付図面第1図)に放出用安全弁2c及びガス減圧弁2aを備えた調整器2を設けた従来の液化石油ガス供給装置が記載されていることが認められる。
上記各記載によれば、前記実用新案登録請求の範囲に記載された「従来の調整器2」とは、ガス減圧弁及び作動ガス圧水柱700±140mmである放出用安全弁を備えた調整器であるものと解される。
したがって、本願考案は、従来の調整器内に設けられていた放出用安全弁を排除して、高圧ボンベ1と各種ガス器具との間に、ガス減圧弁を設け、その減圧弁の低圧側に設定以上のガス圧で作動する高圧ガス遮断弁を設けた液化石油ガス供給装置であることを構成要件としているものと解するのが相当である。
そうすると、本願考案における液化石油ガス供給装置においては、放出用安全弁を設けることを必須の要件としていないことは明らかであるが、本願明細書には、「二重に安全を高める目的で高圧遮断弁と元栓などの間に放散用安全弁(放出用安全弁と同義であることは原告の認めるところである。)を設けても良い。」との記載(願書添付の明細書38頁13行ないし15行)が認められることに徴すれば、本願考案はその構成上放出用安全弁を有しないが、二重に安全を高める目的で、高圧遮断弁と元栓などの間に放出用安全弁を設けることを否定していないものと認められる。
したがって、審決の相違点2についての認定に誤りはなく、原告のこの点についての主張も理由がない。
(2) 相違点についての判断の誤り及び作用効果についての判断の誤り(取消事由2)について
<1> 相違点1について
前記(1)のとおり、引用考案は、従来の液化石油ガス供給装置の前記欠陥を解決することをその課題として、低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合に、低い作動ガス圧で作動する自動遮断装置又は放出用安全弁を設けることが防災上必要であるとの知見に基づき、作動ガス圧を低く設定できる放出用安全弁を調整器とガス栓等との間に設ける構成を採択して、ガス減圧弁(引用考案の調整器内の弁2c及び本願考案のガス減圧弁は高圧ボンベからの高圧ガスを減圧するための弁である点で一致することは当事者間に争いがない。)及び作動ガス圧水柱700±140mmである放出用安全弁を備えた従来の調整器を排除することなく、前記課題の解決をはかったものであるところ、前記甲第3号証(引用例)の昭和50年5月12日付け手続補正書添付図面の第5、6図には、第1図に記載された減圧弁と放出用安全弁を備えた従来の調整器を排除して放出用安全弁2aを備えない調整器2の弁2cを減圧弁とし、その低圧側に放出用安全弁又は放出用安全弁と自動遮断装置を接続した実施例も記載されていることが認められる。そうすると、引用考案が低い作動ガス圧で作動する放出用安全弁を備えた構成を採択するについては、放出用安全弁を備えた調整器を設けることに格別の技術的意義はなく、第5、6図と第7図を合わせみれば、本願考案のように、放出用安全弁とガス減圧弁を有する従来の調整器を排除して、ガス減圧弁を設けることは当業者が必要に応じてきわめて容易に採用し得た程度のものであると認められる。
したがって、審決の相違点1についての判断に誤りはなく、原告のこの点についての主張は、理由がない。
<2> 相違点2について
前記(1)<1>のとおり、引用例には、高圧ボンベから調整器を通して直接液化石油ガスを使用する供給装置の場合、低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合に、低い作動ガス圧で作動する自動遮断装置又は放出用安全弁を設けることが防災上必要であるとの知見が開示されているところ、引用例には、「放出用安全弁10の出口側に作動ガス圧が低い自動遮断装置11を併設すると、放出用安全弁10の作動ガス圧を高く設定できるので、弁2cの高圧ガス遮断力が強くなるため、無駄な漏洩ガス放散を防止できる。」(甲第3号証10頁左上欄19行ないし右上欄4行)と記載されていることが認められる。そうすると、引用考案において、放出用安全弁10は、低圧側のガス圧が規定以上に高くなったときに作動して、高圧ガスを大気中に放散するために設けられたもので、高圧ガスが低圧側の各種ガス器具に供給されないように二重に安全性を高めるため、自動遮断装置11の弁11cとともに供給装置内に併設されたものであるから、その安全性が自動遮断装置11の弁11cのみで十分確保されると認められる場合には、これを除去し、自動遮断装置11の弁11cだけとすることは、当業者が必要に応じてきわめて容易に採用し得た程度のものであると認められる。したがって、引用考案の、放出用安全弁を省略して、本願考案のように、高圧ガス遮断弁(引用考案の弁11c)だけで高圧ガスを遮断するように構成することは、当業者が必要に応じてきわめて容易に採用し得た程度のものであると認められる。
以上のとおり、審決の相違点2についての判断に誤りはなく、原告のこの点についての主張は理由がない。
なお、原告は、引用考案の放出用安全弁方式は、その保安目的とは逆に、ガス事故の原因になっており、ガスを無駄に放散する不経済の原因にもなっているところ、本願考案はかかる安全弁を排除して、放出用安全弁のない減圧弁を設けることによって、格別の効果を奏するものであり、かかる効果は引用考案からは予測できないものであると主張する。
前記(1)<2>のとおり、本願考案において、放出用安全弁を設けることを積極的に排除しているものではなく、二重に安全を高める目的で、高圧遮断弁と元栓などの間に放出用安全弁を設けることも否定されていないのであるから、原告主張の効果は、本願考案の奏する格別の効果とはいえない。また、放出用安全弁の設置を省略してガスを放散しないようにすれば、無駄なガスの放散がなく、ガスの放散による二次的な事故が起こらないことは、自明のものと認められるから、引用考案の放出用安全弁を排除して、放出用安全弁のない減圧弁を設置した場合の作用効果は、当業者にとって極めて容易に予測できるものである。
したがって、原告の上記主張は理由がない。
3 以上のとおり、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)
別紙図面 1
<省略>
<省略>
別紙図面 2
<省略>